主治医の「復職可」を鵜呑みにしてはいけない?産業医が解説する復職判定のポイント
メンタルヘルス不調などで休職していた社員から、「主治医から復職していいと言われました」と診断書が提出された。 会社として、「診断書があるなら安心だ。明日から元通り働いてもらおう」と考えて良いでしょうか?
実は、ここに大きな落とし穴があります。
産業医の視点から、復職判定の難しさについてお話しします。
「日常生活」と「業務遂行」のギャップ
主治医の先生はあくまで「患者さんの味方」であり、その判断基準は「日常生活が送れるか」が中心になりがちです。
また、休職を指示し続けた結果、患者=休職者が職を失った場合、自分の責任になるのではないかと心配する先生もいるかもしれません。
- 散歩ができる
- 趣味を楽しめる
- 家族と会話ができる
これらは回復の証ですが、会社が求めたいのは「契約通りの業務が遂行できるか」「再発せず安定して働けるか」です。 毎朝決まった時間に出勤し、複雑な業務をこなし、時に苦手な上司とも関わる。
この負荷に耐えられるかは、主治医の診断書だけでは判断しきれないことが多いのです。
産業医が確認するポイント
そこで産業医の出番です。私は復職面談で以下のような点を確認し、会社へ意見具申(復職可否の判断)を行います。
- 生活リズム: 朝決まった時間に起き、日中活動できているか。
- 就業意欲と不安: 本人の焦りや、職場に対する恐怖心がないか。
- 主治医との連携: 産業医監修の「情報提供依頼書」を用いて、主治医に具体的な業務内容(残業の有無、対人折衝の負荷など)を伝えた上で、必要な配慮や再発防策を見極めます。
「試し出勤」や「リワーク」の活用
いきなりフルタイムではなく、段階的な復帰(慣らし勤務)のプランを作成することも重要です。
- ステップ1: 短時間勤務・定型業務のみ
- ステップ2: 残業なし・フルタイム
- ステップ3: 通常業務へ
このようにスモールステップを踏むことで、着実な復職を支援します。
「急がば回れ」の精神が、再休職や離職を防ぐ一番の近道です。
ただし、こうした段階的な復帰(慣らし勤務)を行う際には、あらかじめ整理しておくべき実務上の課題があります。
- 賃金の支払いはどう設定するか
- 万が一の労災事故が起きた際、補償は受けられるのか
これらを曖昧にしたまま復職させると、新たなトラブルの火種になりかねません。
そのためには、就業規則をしっかりと整備し、メンタル休職からの職場復帰をあらかじめ具体的にイメージした
「規定・フローづくり」が非常に重要となります。
安全かつスムーズな復職を設計するには、本人(ときにはご家族)、人事担当者、現場の上司、そして精神科医。
これら全てのステークホルダーと連携し、結びつけることができる「調整力のある産業医」選びが肝要です。
もし、貴社のメンタル不調の対応に少しでも不安を感じられたら、お気軽にご相談ください。
就業規則に関しては、メンタル休復職実務に精通した提携の社会保険労務士のご紹介も可能となっております。

