【現役麻酔科医の警鐘】正月のお餅に要注意!「呼吸が止まる」恐怖とタイムリミット

今日はいよいよ大晦日。 お正月が目の前に迫ってきましたね。 お正月といえば、お雑煮、おしるこ、鏡餅など、お餅を使った料理が楽しみな季節です。
皆さんはどんな調理法が好きですか?
さて、楽しいお祝いムードに水を差すようで恐縮ですが、私たち医療従事者、特に「気道管理のプロ」である麻酔科医として、どうしてもお伝えしておきたいことがあります。
それは、「お餅による窒息」のリスクについてです。
■ 1月が突出して多い「窒息事故」
消費者庁や消防庁の最新データによると、食べ物を詰まらせる事故による死亡者は年間4,000人を超えており、その9割以上が高齢者です。 特にお餅による事故は1月に集中しています。東京消防庁管内だけでも、過去5年間で350人以上の高齢者がお餅を詰まらせて救急搬送されていますが、その約4割が1月に発生しています。
■ 「息ができない」とはどういうことか(麻酔科医の視点)
なぜ私がここまで強く注意喚起をするのか。それは、麻酔科医として「呼吸が止まる瞬間」の怖さを身をもって知っているからです。
私たちは全身麻酔を行う際、「筋弛緩薬(きんしかんやく)」という薬を使います。これは手術中に患者さんが動かないようにするための薬ですが、同時に「呼吸をする筋肉(横隔膜など)」も止めてしまう作用があります。 (※よく混同される胃カメラなどの「鎮静」は、眠っているだけで呼吸は止まっていないため、全く別の状態です)
筋弛緩薬が効いてくると、患者さんは自力で息ができなくなります。 私たちはその瞬間、呼吸を補助するマスクで呼吸をサポートするのですが、もしここでうまく酸素が送れなかったらどうなるか……。
体内の酸素濃度を知らせるモニター音が、「ピッ、ピッ、ピッ」という高い音から、「ブッ、ブッ」という低い音へと変わっていきます。 体内の酸素濃度が急激に下がっていっているので、一刻も早く対処しなければならない状況です。酸素が来ない状態というのは恐ろしいのです。
■ なぜお餅は詰まるのか?(医学的な理由)
消費者庁の資料によると、お餅には「温度が下がると硬くなり、くっつきやすさ(付着性)が増す」という厄介な性質があります。 お椀の中では柔らかくても、口に入れて喉を通る頃には体温などの影響で温度が下がり、硬くなって喉の粘膜に張り付きやすくなるのです。
これに加え、高齢者の方は「唾液が減る」「噛む力が弱くなる」「飲み込む力が弱くなる」といった身体的な変化があるため、リスクが跳ね上がります。
■ 救急車を待っていては間に合わない?
医学的には、脳に酸素が行かない状態が3〜4分続くと、脳細胞に不可逆的な(元に戻らない)ダメージが残ると言われています。 一方で、救急車の到着には平均で約8~10分かかると言われています。 つまり、「喉に詰まってから救急車を呼んで待っていては、間に合わない可能性が高い」というのが現実なのです。
■ 悲しい事故を防ぐための「3つの約束」
消費者庁が推奨する、事故を防ぐための具体的なポイントは以下の通りです。
- 小さく切る 一口サイズではまだ大きすぎます。喉に詰まらないよう、調理段階でさらに小さく切りましょう。
- 喉を潤してから食べる 食べる前に、必ずお茶や汁物を飲んで喉を湿らせてください。 ※ただし、お餅を噛んでいる最中にお茶で流し込むのは危険なのでやめましょう。
- 「見守り」と「よく噛む」 ゆっくりよく噛んで、唾液と混ぜてから飲み込みます。そして何より、高齢の方が食べている時は、周囲の方が食事の様子を見守ってください。
■ 【保存版】万が一、喉に詰まってしまったら
もし目の前で家族が喉を押さえて苦しがっていたら(チョークサイン)、すぐに119番通報をし、救急車が来るまでの間、以下の処置を行ってください。
1. 背部叩打法(はいぶこうだほう):背中を叩く これが第一選択です。
- 患者さんの後ろや横から支えます。
- 手の付け根で、肩甲骨の間を「力強く」「何度も」叩いてください。
2. 腹部突き上げ法:お腹を突き上げる 背中を叩いても出ない場合に行います(※妊婦さんや乳児には行わないでください)。
- 後ろから抱え、おへその上(みぞおちより下)で握りこぶしを作ります。
- 「手前上方」に向かって、一気に突き上げます。
※重要:反応がなくなったら 呼びかけに反応がなくなってしまった場合は、ただちに心肺蘇生(胸骨圧迫/心臓マッサージ)を開始してください。
対処法に不安がある場合は、119番での通話先に指示を仰いで対応して下さい。
せっかくの楽しいお正月です。 ご家族皆様が笑顔で過ごせるよう、今年のお餅は「いつもより小さめ、のどを潤し、よく噛んで」楽しみましょう。 どうぞ良いお年をお迎えください。

